とりあえず現段階でのまとめ

236 キミには到底敵わない。[sage] 2008/11/16(日) 22:01:04 ID:ViNZ52DQ

―――なんだってのさ、もう!
家に着くなり、千鶴は声にならない悪態を吐く代わりに、鼻息を荒くしてベッドに横たわった。
どうしてこんなに胸がムカムカするのか、ワケが分からない。
こんなに気持ちの悪い胸のむかつきは、未だかつて経験したことがない。
中学のときに図らずも巻き込まれた、楜沢梅が発端となった「みんなの風早くん」事件のときは、思春期の女子が持つ独特の集団意識に困惑したこともあったが、今回ほどムカムカした訳ではなかった。
こんな苛立ち感は、千鶴の知らない感情だ。
「なんだってのさ、もう!」
今度は実際に声に出すと、枕もとに置いてあるクマのぬいぐるみの頭をボコッと殴る。これじゃ、まるで八つ当たりだ。
さっきも教室で、思わず龍に八つ当たりをしてしまった。
―――悪いことしたかな。
そうは思うものの、本当に当り散らしたい敵がなんであるか、千鶴には見当も付かない。
思い当たることと言えば、あの、手紙を見てからだ。
幼なじみの龍宛てに届いた、可愛らしい封筒。
あれを見てからだ、こんな感情に苛まれたのは。
目を閉じると、自然と今朝の出来事が蘇ってくる。


今朝、千鶴は寝坊をして遅刻寸前だった。
駆け足で玄関に飛び込むと、いつもならもう既に野球部の朝練に出ているはずの龍の背中が目に映る。
千鶴と違って焦った様子がないことから、朝練が休みだったことが見て取れた。
息を切らしながら、千鶴は見慣れた広い背中を勢い良く叩く。
「よっ!龍、おはよー!朝練、休み?」
いてっ、と小さく呟くものの、龍が決して怒らないのは、確認するまでもなく叩いたのが千鶴であることを知っているから。
「……ん」
いつもながらに元気で大きな声に圧倒されながらも、答えながら自分の下駄箱を開く。
と、開いた扉の中から、何かがひらひらと舞い落ちてきた。
「……」
怪訝に思いながら視線を下に降ろすと、落ちた物体は手紙だと理解できた。
『真田君へ』
そう書かれた封筒は、龍だけでなく千鶴の目にも飛び込んできた。
その正体は訊くまでもない、可愛らしく飾られたその封筒は、明らかに差出人が女子であることが見て取れる。
―――なに、これ。
不愉快が一瞬、千鶴の脳裏を過ぎり、内心呟く自分に驚く。そして即座にその考えを否定する。
―――あたしには関係ないじゃんか。
そしてそれを態度に出してしまうのが千鶴である。
勢い良く右手を上げると、その手を龍の背中へ叩きつける。再び背中に走った痛みとともに、千鶴の声が龍の耳をつんざいた。
「……龍!これ、ラブレターじゃないの?」
背中を容赦なくバシバシ叩きながら、ひやかす千鶴の声が響く。
「やったじゃん!……そっかー、龍もそんな年頃かー!そっかそっか!」
自分の言ったセリフに悦に入りながら、千鶴は一足先に教室へと歩を踏む出した。
「……同い年だろ」
と呟いた龍の声は、もちろん千鶴には届いてはいない。
237 キミには到底敵わない。 2[sage] 2008/11/16(日) 22:02:59 ID:ViNZ52DQ

昼休み、日当たりの良さと昼食の後からか、うとうとしかけていた龍に千鶴の声が落ちる。
「で、何て書いてあったのさ」
「……うん?」
何のことを言われたのか、急には判断できない龍に代わって千鶴が答えを告げる。
「今朝の手紙」
「あぁ」
そういいながら、当該の手紙をブレザーのポケットから取り出す。
「……これ?」
「そうそう!何て書いてあったのさ?」
「……知りたいなら、読めば?」
ぽい、と擬音が混ざりそうな勢いで机に投げ置かれた、既に封が切られた手紙を見て、千鶴はからかい半分で口にした言葉を唐突に後悔した。
その後悔の理由が分からないため、後悔は一瞬にして八つ当たりへと変化する。そしてその怒りは目の前の龍にぶつけられることになる。
「……なんでアタシがアンタ宛の手紙を読まなくちゃならないのさ!」
「だって、中身知りたいって……」
「んなもん、興味ないよっ!」
それでなくても大きな声を更に張り上げて龍のセリフを遮ると、千鶴は足音を響かせながら教室を出て行った。
台風のようなその経緯は、もちろん教室にいた全員が目の当たりにし、千鶴を追っていた目線は全て残った龍に注がれることとなった。
「ち、ちづちゃ……」
「ちづ!」
去っていく千鶴の背中を見送ったあと、一部始終を見ていた爽子とあやねが、その視線を龍へ向けた。
「どうしたの?アレ」
「……」
あやねからの疑問に答えることなく、龍が神妙な顔で千鶴が出て行った扉を見つめていたことなど、千鶴は知らない。




本当に、何と書かれていたのだろう。
龍に宛てられた手紙の内容が、本当は気になって仕方がなかった。
何気なく内容を訊いてはみたが、再び目の前に出されるとは思っても見なかった。封筒の中身を知りたかったクセに、いざ目の前に出された手紙を見た途端、柄にもなく動揺してしまった。
本当に読んでしまっていいのだろうか、そして読んでしまったら最後、それがラブレター以外の何物でもないことを知ってしまっていいのだろうか。
そんなことを気にする自分がもどかしく、そしてどうしてこんなにも気になっているのか、千鶴は自分の感情を持て余していた。
あの封筒はどう見てもラブレターだ。中身には、好きです、とか、付き合って欲しい、とか、そんな甘い言葉が並んでいたのだろうか。
「あの、龍に!?……はは、ありえないって!」
声に出して言っては見るものの、そうすることで妙な現実味が千鶴を襲った。
龍が、あのぶっきらぼうの幼なじみが、背の低い可愛い女の子を隣において、一緒に歩いている姿が目の前に広がる。
顔の見えない隣の彼女に、どうしようもない敗北感を感じずにはいられない。
「……やだよ、……そんなの…どうしよう……龍っ……」
胸が潰れそうな痛みに千鶴は思わず涙して、そのまま布団を被って泣きながら―――眠ってしまっていた。
238 キミには到底敵わない。 3[sage] 2008/11/16(日) 22:05:34 ID:ViNZ52DQ

ふと、誰かの気配を感じて目覚めた。
布団を被っていたせいで視界は暗いままだったが、布団から顔を出すと蛍光灯が目を射した。
眩しさから目を背けて暫くした後、自室に龍が居ることに気付いた。
「……な、なにしてるのさ、人の部屋で」
声を出すと、自分でも驚くほどの鼻声だった。多分、目も腫れているだろう。
目の前の朴訥とした少年が、その鼻声や腫れた目を作った原因だと悟られたくなくて、千鶴は咄嗟にそっぽを向いた。
「……カバン。置いていったから、持ってきた」
そういえば、あの時感情に任せて教室を出てきてしまったので、カバンを持たずに下校してしまっていた。しかも、午後の授業はすっぽかしだ。
「ピンには体調悪くて帰ったって言っておいた」
千鶴の心配ごとを先回りして言う龍に、千鶴は悔しさを隠し切れない。
―――いつだってそうだ。龍には、あたしの考えていることを先に読まれてしまう。どうしてコイツには分かってしまうのか。
それが、悔しい。龍が考えていることなど、千鶴には分かりはしないのに。
「……なんて答えたのさ」
考えが読めないから、訊くしかない。手紙の相手に、どんな返事をしたのかを。
「……?」
千鶴の質問が分からなかったのか、龍は眉間に皺を寄せて考える風を装った。が、龍の思考は思ったより長かった。千鶴は我慢できずに聞きなおす。
「……だから、手紙の相手にさ!」
「…手紙?」
「今日、下駄箱に入ってた!」
「…ああ。アレ?…でも、返事って……」
「告られたんだろ?!」
ヤケクソで怒鳴ると、一瞬の間を置いて、龍が吹き出して笑った。
「な、な、な、なんだよっ!人がやっとの思いで訊い……」
からかわれたと思って叫ぶ千鶴の声は、龍の唇によって封じられた。
やけに柔らかいものが、自分の唇に当たっている。そして目の前には千鶴とは逆に目を閉じたドアップの龍の顔。
あまりの急な出来事に、驚きのあまり千鶴は龍を突き飛ばすことも目を閉じるのを忘れていた。
―――き、き、キス……してる?!……あたしと、りゅ、龍が?!
最初は目を見開いて固まっていたが、キスの感触は悪くなかった。こういうときは、やっぱり目を瞑ったほうがいいのだろうか。
そう思い当たると、千鶴はぎゅっと固く目を閉じて、重ねられた龍の唇の温かさを感じていた。

二人の始めてのキスは、ぎこちないながらも続いていた。
重ねるだけのキスは次第についばむように、軽く離れては深く重なっていく。
布団から顔を出しただけの千鶴に、体重をかけないように覆いかぶさる龍。その手が千鶴の髪や頬、首筋を撫でる。
その指は、いつもの幼なじみとしての指ではなくなっている。愛するものを優しくいたわるような、そんな愛情に溢れている。
一度唇を離すと、龍は千鶴を真っ直ぐに見つめると、口を開いた。
「……あれは、ラブレターじゃない」
思っても見なかった回答に、千鶴は二の句を繋げることができない。
「……もし、万が一そうだったとしても、俺が千鶴以外と付き合うなんてありえない」
「……りゅ……」
「好きだ。もうずっと前から」
そう言って再度千鶴の唇を奪う。今度は強弱をつけながら、愛しい唇を十分すぎるほどに味わう。少しだけ硬さのとれた唇から、吐息が漏れるようになった。千鶴がキスに慣れてきた証拠だ。
「ヤキモチ、妬いてくれてたんだろ?」
また離れた唇から零れた問いに、的を射すぎるほどのその言葉は、反射的に彼女の顔を赤く染めた。しかし、口では否定することを忘れなかった。
「そ、そんなわけ、ないじゃんっ!……な、なんであたしが龍に……」
言い噤んだのは、龍の顔が全てを知っているように微笑んだから。もう、きっとどんな誤魔化しも効かない。
「………そ、そうだよっ……ぜ、全部、龍が悪いんだからねっ!」
八つ当たりのように言うと、涙が溢れてきた。止めようと思うのに、止まってはくれない。
「……龍なんて、……あたし、……龍が、…手紙の子、と、付き合っちゃうん、じゃないかって……お、思っ、て……」
徹のときも辛かったけど、今日のはもっと効いた。
泣きじゃくる子供のように呼吸困難になりながら、千鶴は龍への想いをぶつける。そんな彼女が可愛すぎて、龍は横たわる千鶴にそっと添い寝をし、布団ごと千鶴を抱きしめて髪を撫でていく。
千鶴は龍の首筋に顔を埋めて、思う存分泣く。そんな千鶴の髪や、頬や、額にキスをする。
可愛い幼なじみが、愛しい恋人になった瞬間だった。
239 キミには到底敵わない。 4[sage] 2008/11/16(日) 22:07:25 ID:ViNZ52DQ

「はああ?メンバー表?!」
翌日の教室に、こんな千鶴の驚愕の声が響いた。
結局あの後、泣き疲れて眠ってしまった千鶴は、結局手紙の内容がなんだったのかを訊きそびれてしまったため、翌日の教室で改めて龍に訊いてみた。そうして返って来た答えがコレだ。
「メンバー表って、野球の?!」
「そうだけど」
そう言って、龍は取り出した封筒の中身を広げて見せる。そこには、タイトルのように大きく明後日の日付が書かれており、その下には恐らく打席順だろうか、野球部員の名前が順々に記されていた。
休みがちだった野球部の女子マネージャーが、部員全員の下駄箱にその封筒を入れてまわっていたことが、龍の口から明かされた。
思いもよらない結末に、千鶴は穴を掘って自分を埋めてしまいたい衝動に駆られる。
あたしはこんな内容にヤキモチ妬いて、んでもって挙句の果てに恥ずかしいことをペラペラと龍に聴かせてしまったのかーっ!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁっっっ!」
人生で一番の羞恥心はココで来たらしい。千鶴は髪を掻き乱して声にならない叫びを上げ、キッと龍を睨んだ。
謀ったわけではなさそうだ。でも結果的には言わされた。あたしはきっと龍には敵わない。あの、全てを悟ったような微笑には。
「あたしは死ぬ!いま、ここで死ぬうっっっ!」
滝のように涙を流しながらシャープペンシルを喉元に突きつける千鶴を、必死で止める爽子。
あやねはあやねで、龍と千鶴の間に流れる空気の違いを怪しんでいる。
そんな様子を呆れたように見ている龍の、唯一の弱点が自分だなんて、千鶴には知る由もない。


いつもの教室に、いつもの喧騒。
だけど、昨日とは違う二人が、そこにはいた。



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