とりあえず現段階でのまとめ

535 君に触れたい。1[sage] 2008/12/27(土) 23:11:17 ID:n/iH2WAn

 初詣は毎年、龍と行く。
 毎年約束をしなくても、いつもの時間に龍の家に行けば、準備万端の龍が待っているはずだ。
 いつもと何ら変わらないけれど、二人の間柄は去年とは違う。
 龍の気持ちを、泣きじゃくった耳ながらも千鶴はしっかりと聞いている。が、しかし、一向にカレカノの雰囲気にならないのが、この二人だった。


「おっちゃーん、龍、いる?」
 いつもと同じように店に顔を出すと、龍の父親が返事をくれる。
「おお、ちづちゃん。昨日まで手伝い有難うなー」
 毎年のことだが、長期の休みに入ると千鶴は龍の家業のラーメン屋を手伝う。昨日で年内の営業を終えたが、龍の父親は掃除のためか、カウンターの中にいた。
 その礼の言葉に、いやなんの、と照れながら階段を上がろうとする背中に、再び声が掛かる。
「……いやほんと、ちづちゃんがうちの娘だったらなあ!」
 前にも聴いたことのあるセリフ。徹に片思いをしていた時だ。儚くも破れた恋だったけれど、そうして気付いたことがある。龍だけは、失いたくないと。
「……あたしも、そうなりたいよ!」
 照れ隠しが、逆に大声になる。瞬間、龍に聴こえたかもしれない、と顔を赤らめた。
 引き戸を開けると、はやりそこには出かける準備を整えた龍がいる。
 さっきのセリフが聞こえてたのではないかと龍の表情を伺うが、その無表情からは何も読み取れなかった。


「んじゃ、行ってくる」
「おっちゃん、またねー」
「おう、気を付けてなー」
  毎年繰り返されてきた会話は、やっぱり今年も変わらない。それが心地いい。
「相変わらず人多いねー」
 神社に近づくにつれ、人口密度が上がる。徐々に、人を避けながら二人で並んで歩くのが困難になってくる。
 今年は特に人出多いな、などと考えながら、冷たくなってきた手に息をかけていると、急に龍が立ち止まった。千鶴も同じように足を止めるが、龍は何も言わずに立ち尽くしている。訝しげに見ていた千鶴が口を開く。
「……なに」
「ん」
 龍はひとことだけ言うと千鶴の手首を掴み、そのまま自分のダウンジャケットのポケットの中に千鶴の手を収めてしまった。
 そして龍の手が同じように入って来て、ポケットの中で重なる。
「りゅっ」
 あまりの突然な出来事が、千鶴の声をひっくり返す。そんな声に龍の言葉が被る。
「手袋くらいしてこい、バカ」
 いつにも増してぶっきらぼうなのは、照れているからだと分かる。それが分かる自分が嬉しい。
「バカって、…アンタも手袋してないじゃんっ」
 軽口を言い返しながら、千鶴は大きな手に包まれる温かさを感じていた。
536 君に触れたい。2[sage] 2008/12/27(土) 23:13:21 ID:n/iH2WAn
 
 賽銭を投げ願い事をし、去年は飲みそびれた甘酒を堪能し、新年を迎えた後におみくじを引いて互いの結果を罵りあう。
 毎年恒例の行事だが、違うことと言えば、往復する間、千鶴の手は龍のポケットに入ったままなこと。そして歩を進め、龍の家の前に着いて、千鶴が感じた感情。
 離れ難い、というその初めての気持ちに千鶴が戸惑っていると、龍が口を開いた。
「……上がってくか?」
「うん!」
 間髪いれずに返事をして、龍に苦笑いされる。家は近所だから、いつだって帰れる距離だ。龍と出かけていることを知っているわけだし、多少遅くなったとしても家のほうでも心配はしないだろう。
 店に入ると、やけに静かなことに気がつく。
「あれ?おっちゃんは?」
「商店街の忘年会……もう新年会か」
「あ、そ……」
 二人きり、ということに慣れているはずなのに、なぜか千鶴に緊張が走る。
 前みたいにキスされんのかな、と過ぎった頭を振る。いや、何かを期待しているわけじゃないんだあたしは。
 自分に言い訳しながらいつもの癖でベッドに座り、即座に後悔する。ってか、これじゃあ誘ってることにならないか?いやだけど今座るとこ替えたら超怪しいし。って、なんでキョドってんのあたしっ!
「千鶴?」
「にゃっ、にゃにっ!?」
 思考回路が混乱を極めていた矢先に呼ばれ、回らない舌で答えると、龍が吹き出した。
「にゃにって………ぶっ」
「な、なに笑ってんのさ!……あ、こら、笑うな!笑うなって言ってんの!」
 くつくつと笑い続ける龍に自分の緊張が見透かされていたような気がして、千鶴はクッションで龍をバシバシと叩く。それを手でガードしながらも笑い続ける龍。そして、その笑いが千鶴にも伝染した。
 二人でひとしきり笑い終えると、どちらからともなく手をつなぐ。
 目を瞑るタイミングなんて勉強したわけじゃないのに、2度目のキスは前回よりもスムーズだった。
 不思議だ。兄弟みたいに育った相手が、こんなに大切になるなんて思ってもみなかった。そしてその相手の唇がこんなに心地いいなんて。髪や頬を撫でられるのが、こんなに安心するなんて。
 誰かに教えられた訳じゃないのに、顔の角度を変えている自分に驚く。鼻がぶつからないように、なんて、自然の成り行きで、考えてするものじゃないんだ。
 自然の成り行きは、その後もやってきた。龍が自分の身体をベッドへと倒したのだ。流石の千鶴も、付き合っている男女が「そういうこと」をすることくらいは知っている。知ってはいるが。
 いやいやちょっと待て、それはいくらなんでも早い気がする。そんな思考が千鶴を支配する。
「りゅ、龍っ」
「……ん?」
 唇が離れた隙に、呼びかける。とりあえず、こっちに(今は)その気がないことを伝えなくてはならない。
「あ、あのさ」
「いや?」
 先回りして言われると、言葉に詰まる。
「いや、……イヤじゃないんだけど……」
「だけど?」
「ま、まだ早いような……」
「そっか」
 そのあっさりしすぎるくらいの引き下がり具合は、逆に拍子抜けするくらいだ。龍は横たわったままの千鶴を起き上がらせると、ぽんぽんと千鶴の頭を撫でた。
「俺は結構前から我慢してた」
 そんなことを微塵も感じさせなかったクセに、唐突に本音を言う龍に戸惑う。だって、キスだってあれ以来してなかったじゃん。そんな千鶴の感情を余所に、龍が話し始める。
「中学のとき、暴れ馬だった千鶴を本気で負かしたの、どうしてか分かる?」
「……ああ、アンタに負けたアタシの黒歴史ね……」
喧嘩100連勝を目の前にして龍に戦いを挑み、あっさりと負けてしまった千鶴の古傷だ。当時の感情が蘇ったのか、屈辱オーラに包まれる。
「アンタに勝てば100連勝だったのに……!」
「他の男にあれ以上千鶴を触らせたくなかった」
力こぶを掲げようとした千鶴の腕が途中で止まり、驚きの顔で龍を見る。
「龍」
「もし俺を負かせば、千鶴は次の誰かと対戦したろ?いくらアイツらが千鶴を女としてみてなくても、喧嘩しながら千鶴に触れるのがイヤだったし……」
「アンタ今自然な流れで喧嘩売った?」
 そういいながらも、龍がそんな気持ちでいてくれたことを嬉しく思った。もしかして我慢ってその時からかもしれない、とも思ったが、本人に確認するのは止めておいた。 
『あの時負かされたの、チャラにしてやってもいいかな』
 いつになるかは判らないけど、いつかきっとその日が来る。それまで龍を我慢させることが、千鶴にとってあの時に負けた仕返しになるのかも、と、内心で小さく笑った。


 了
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