- 655 名無しさん@ピンキー[sage] 2009/01/08(木) 06:26:07 ID:wzeMrFyt
- 最近、龍が妙に優しい。なんだ?
同情?
哀れみ?気づかい?
いや、龍はそんなんしない。
んー…、わからん!
やっぱ本人に聞いてさっぱりしよう。
そーだよな。そーしよ。
ガラガラッ
「おっちゃん、こんちわー!」
「おうっ、ちづちゃん!いらっしゃい!!」
威勢のいい声、湯気が立ち昇りむっとした空気。条件反射でよだれが出そうになった。
「この間は結婚式、あんがとよ!味はいつものでいいかい?」
「本当いい式だったよ!いや今日は龍に用があってきたんだ」
「あちゃー。龍なら今、買出し頼んで出てったばっかなんだわ」
「そっか。急ぎじゃないから待つよ。先に上がってんねっ」
「わるいね!帰ってきたら上がらすよ」
「いいんだ。用が済んだら味噌ラーメン食べるから!」
「あいよっ!!」
まさに勝手知ったる人の家。見慣れた階段は足元を見ないでも駆け上がれる。
「おっじゃましまーす」
律儀に龍のいない部屋に挨拶してみる。これを言うのは龍がいないときだけ。ちょっとした後ろめたさをこの一言で帳消しにする。
鞄を適当に放り出し、軽く伸びをして寛ぐ。大きく開いた窓から入り込む風が制服のスカートをばっさばっさ捲る。
勢いよくベッドに体を投げ出すと、舞い上がった埃の中に微かに龍の匂いを見つけた。心地よさに目を閉じれば、さっきまで遊んでいたやのちんと爽子の顔が瞼に浮かんでくる。
- 656 名無しさん@ピンキー[sage] 2009/01/08(木) 06:27:16 ID:wzeMrFyt
- ―――――
「なんかさー最近、龍の奴、妙に静かっていうか優しいっていうか」
翔太と爽子の付き合いっぷりを根掘り葉掘り聞き出し、一通り笑い倒した後だ。口いっぱいにポテトを頬張りながら、呟く。
「うまく説明できないんだけど、変なんだよね」
「ふーん」
ポテトから顔を上げて二人の顔を見る。やのちんはニヤニヤ悪い顔して何も言わないし、爽子は…は、半泣きっ!?
「どしたんだよ、何か知ってんの?爽子」
「…!し、知らない」
「そんなに気になるなら聞いてみたらいーじゃん。まどろっこしいの嫌いじゃなかった?」
嬉しそうに首を振る爽子。…すっげー知ってそうで怪しいんだけど。
やのちんの言う通り。まどろっこしいのもウジウジすんのも大っ嫌いだ。
「でも、なんて?聞きづらくね?」
「そう?そのまんま聞けばいいだけじゃん」
う゛ーん。
唸るあたしに、キラキラ爽子。やのちんがコーヒーを飲み終える。
「…こわい?」
「なにがっ!?」
「聞くのが。臆病に、なる?」
「別に聞くのなんかちょちょいのちょいで…」
「じゃあラーメン食べるついでに聞いといでよ。今から」
「今からっ?ポテト食ったとこだよ!?いや食えるけどさ」
―――――
そのまま押し切られてここにいる自分。まあ遅かれ早かれ聞いてたんだし、いっか。
それより布団もっふもふー、気っ持ちいー。
傍にあったタオルケットを頭が隠れるぐらいすっぽり被る。枕に顔をぐりぐり埋めるとお日様の匂いがして、夕日と一緒に意識も沈んだ。
- 657 名無しさん@ピンキー[sage] 2009/01/08(木) 06:28:20 ID:wzeMrFyt
- だれかが遠くでよんでる
行かなきゃ、起きなきゃ
起きたら
どうなる?
「―――る、」
もぞっ
「…ん゛ん?」
「千鶴」
ねむっ…りゅう? ああ、ここ龍のベッドだ。
「もう外、真っ暗だぞ。…寝すぎ」
優しい声が笑ってる。だって布団が。頭がまだねてる。なにしにここにいんだっけ…。
「おい?」
そうだ。
「りゅう、変」
聞こえなかったのか、耳を寄せてベッドの端に龍が座る。
ベッドの軋みが、未だにまどろみの中に寝転んでいたあたしの方まで伝わってくる。
「りゅう」
「なに」
「最近…あたしにやさしくない?」
タオルケットが後頭部まで被ったままで座ると、龍がぼんやりと目の前にいた。寝起きで少し舌足らずになる。
ベッドについた半袖カッターシャツから伸びた自分の手が、龍の膝に当たりそうで眺めてた。
「なんか、あった…?」
「なんもない」
「じゃあなんでよ」
「…それ聞くためだけに来たのか?」
「そーだよ」
「………………」
「龍?」
「知りたい?なんで優しいか」
「そりゃあ…」
聞きに来たんだし、知りに来たんだし。…こわくなんかないね!
「知りたい…?」
やっと脳みそが起きた気がした。いつもと違う雰囲気に気圧されそうになる。
うん、と短く返事をする。思わず声が上擦った。
- 658 名無しさん@ピンキー[sage] 2009/01/08(木) 06:29:21 ID:wzeMrFyt
- 「………」
にゅうっと龍の両手が伸びて、あたしの顔の横に引っ掛かったタオルケットを掴む。
「千鶴」
「わっ!」
低い声に呼ばれるように、タオルケットごと引かれた顔が顔にぶつかるかと思った。
「りゅっ…………う?いま何」
「千鶴」
おでこに声と柔らかいものが触れた。これ、って。
「千鶴」
眉間に。
「千鶴」
瞼に。
「…龍っ!」
「知りたいんだろ?」
そう。
ただ知りたいだけなのに。こわい?何が。
「千鶴」
目尻に。
「千鶴」
鼻先に。
「千鶴」
頬に。
呼ばれるたびに降るキスは止まらない。
- 659 名無しさん@ピンキー[sage] 2009/01/08(木) 06:30:59 ID:wzeMrFyt
- 「…?」
近いよ!全部近いよ!覗くなよ!息がかかるだろっ!何だよ!??ちづちづ呼びすぎだろ!
言ってやりたいことは、すっげーいっぱいある。なのに呼ばれる度に体しか跳ねない。
「分かった?何で俺が千鶴に優しいか」
わかりたくないよ。
「…こうされるの、嫌?」
わかんないよ!嫌じゃなかったら、なに。
もうこれ以上知りたくないんだってば。
「…わかんねー…」
「言ったろ?鈍くて単純な奴がタイプだってさ」
いやいやと首を振っていたのを止め、視線を上げる。―――あたし、泣くな。
「俺は、千鶴が好きだ」
穏やかに耳に入る聞きなれた声。
「千鶴が好きだから、こうした。……千鶴が俺のこと、どう思ってるのか分かったら教えて」
「ずっと!!!ずーっと分からなくて、あたしがいつまでも言わなかったら?どーすんのさ!」
「待つよ」
真黒い、一直線な目。
「…もうずっと待ってたんだから」
ただただ、やさしい。
「これからだっていくらでも、待てる」
なに嬉しそうに笑ってんだよ。
こっちは頭ぐちゃぐちゃで苦しいのに。
「っ…………帰る。」
立ち上がると以外にもすんなり手は解けた。最初からこーしときゃ良かったんだ。
【おっしまい】
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