とりあえず現段階でのまとめ

70 タイムアップ1[sage] 2010/12/03(金) 18:01:05 ID:cV0PgzIQ
・龍×千鶴
・エロなし


雪の降るある寒い夜だった

「あーっ!!やられた……」
龍の部屋に千鶴の大声が響く。
テレビ画面にはContinue?の文字が表れカウントダウンが始まった。
「ねー、もっかいやろ!」
放り出したコントローラーを引き戻し千鶴は声を張り上げる。
「また?」
「いーじゃん!もっかいだけ!」
そう言うとゲームのリセットボタンを押した。
これで何度目の対戦だろう、と思いながら龍はしぶしぶコントローラーを握る。

派手な効果音が鳴り響き二人はしばしゲームに熱中する。
「あっ!」
「………」
「このっ!」
千鶴の頑張りもむなしくテレビには勝敗のついた画面が映し出された。

「あー!くやしー!」
千鶴は画面を睨み付け、その視線はそのまま龍に向けられた。
「なに?」
「どーして勝てないかなあ?」
二人はベッドの淵を背もたれにして座っていた。
そのベッドに千鶴が勢い良く飛び乗る。ギシリと軋む音がした。

変わらず睨みをきかせる千鶴に龍は少しだけ口角を上げる。
「そんなに勝ちたい?」
「勝ちたいよ!だって、負けたままじゃくやしーじゃん!」
あぐらをかいてプイとそっぽをむく千鶴。

負けず嫌い。それも半端なく。
こういう千鶴が好きだ。
しかし、時としてそれが自分を悩ませることも龍は知っていた。

71 タイムアップ2[sage] 2010/12/03(金) 18:01:46 ID:cV0PgzIQ

それは今日の昼のこと。
龍が学食から教室に戻ると人だかりが出来ていた。
「やりぃ、またあたしの勝ち!」
人の山の中、誇らしげに拳を高く挙げる千鶴がいた。
机の向こう、相手がいてーと顔をしかめて腕を振っている。
「おおっ、また吉田の勝ちだー 」
「すげー」
「吉田ホント腕相撲強いよなー」
どよめくクラスメイトたち。
「じゃあ、明日のお昼よろしくー」
千鶴は周囲見渡し――おそらく対戦で負けたであろう男子にそう言い渡すと満面の笑みを浮かべた。

見慣れている、とその時龍は思った。
こんなふうに男子と張り合う姿を中学の時、いや、子どもの頃から何度も目撃している。
だけど、いつからか。
胸に広がるこの黒いもや。千鶴のこんな姿を見るたびそれは日増しに強まっていく。
この感情はいつまでたっても慣れない。
慣れたくもない、が。

72 タイムアップ3[sage] 2010/12/03(金) 18:02:25 ID:cV0PgzIQ

「……龍?」
急に黙り込んでしまった龍に千鶴の訝しげな視線が突き刺さる。
「ああ、何でもない」
ハッと顔をあげた龍の目線丁度に、ベッドに置かれている千鶴の手があった。
いくら強いとはいえ、女だ。
女子にしては大きい手。
けれど指を見ても自分のそれと比べはるかに細い。

「負けず嫌いもいいけど」
龍はゆっくりと口を開いた。
「あんま無茶すんなよ」
「は?」
何それ、意味分かんないと答える千鶴に龍はふうっ、とひとつ息を吐いた。
「今日、教室で」
「?」
「腕相撲……」

その言葉に、思い出したように千鶴はニカッと笑った。
「すごいでしょー!5連勝!明日の昼は豪華なんだー」
「あたしに勝てるやつなんてそうそういないしー」
「今度は誰と勝負すっかなー?」
得意気な様子の千鶴。

それでも龍の表情が僅かに曇ったことに気が付いたようだ。
「なに?もしかして羨ましいの?」
「………」
「勝負する?勝ったらあたしの戦利品くれてやってもいーよ!」
「……いや、いい」
予想通りの反応が返ってきて龍は目を細めた。しかし……

気が長いことは長所だと思っている。
……いつまでもつか。
また頭の隅で、教室で男子に囲まれる千鶴の姿が蘇った。
いまだ消えない独占欲が燻り続けている。

73 タイムアップ4[sage] 2010/12/03(金) 18:03:04 ID:cV0PgzIQ

龍は立ち上がると千鶴の腕を掴んだ。
咄嗟のことに、千鶴はバランスを崩し体を揺らす。
――またベッドが軋んだ音を立てた。
少しでも力を入れたら簡単に引き寄せられる。
男の力を見せてやりたい、そんな凶暴な欲がちらり、と顔を覗かせる。

「なっなによ?」
いつもと様子の違う龍に一瞬千鶴は戸惑う。
しかしそれも僅か、すぐにいつもの強気な瞳が龍を見上げた。

「やるの?あたし強いんだからね?」
「千鶴」
低いがよく通る声がその名を呼ぶ。
龍は掴んだ腕に少し力を込め細い感触を確かめた。

つけっぱなしのテレビからは何の音も聞こえてこない。
リセットボタンを押さない限りおそらくこのまま。

「龍?」
かすかな不安の交じった声色が空気に溶ける。
それだけで、体に燻っていた熱が一気に広がっていくのを龍は感じた。

その体を力一杯抱き締めたい、
いくら千鶴が頑張っても、振りほどけないほど、強く。

じりじりと焦げるような視線を上から受けて千鶴は立ち上がることも、腕を振り払うことも出来なかった。
しばらく二人は微動だにしなかった。
静まり返った部屋に階下から聞こえる賑やかな声。

74 タイムアップ5[sage] 2010/12/03(金) 18:04:19 ID:cV0PgzIQ

「いたっ……」
先に動いたのは千鶴だった。
徐々に強まっていく力に千鶴は顔をしかめ腕を振りほどいた。
「ちょっと!痛いよっ!」
「あ……わり」

何とも気まずい空気が流れる。
千鶴は恨みがましく龍を見上げていたがやがて……
「……あたし、帰る」
そう言って慌ただしく立ち上がるとぴょん、とベッドから飛び降りた。
二人の距離は一気に広がってしまった。

「……気を付けてな」
「あたしんちすぐそこなんだけど」
「知ってる。けど、いちおー」
「はあっ?」
「お前、女だし」
「なっ……に言ってんの?今日の龍、なんか変!」

バタンと戸が閉まった。
「ひとの気もしらねーで」
その言葉が千鶴に届くことはない。
階段を掛け降りる音を聞きながら龍はポツリと呟いた。

「……惜しかったな」

『Time’s up』テレビ画面にはそう文字が浮かんでいた。

おわり
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